「詩のこころを読む」(茨木のり子)

美しいだけでなく心に鋭く突き刺さってくる言葉たち

「詩のこころを読む」(茨木のり子)
 岩波ジュニア新書

もう何度読み返したことか。
小説は何度か読み返しますが、
新書本を複数回読み返しているのは、
本書だけです。
詩人・茨木のり子。
詩集はもちろんですが、
書いた文章すべてが
キラキラと宝石のような
輝きを持っています。

ここに収められている、
いろいろな詩人の作品も
もちろん素晴らしいのですが、
それを解説する茨木の文章は
さらに美しいのです。
そして美しいだけではなく、
なぜか心に鋭く
突き刺さってくるのです。

「頼んで生まれてきたんじゃないや」と
憎まれ口をたたく子供も多く、
それなのに、
ああしろ、こうしろとうるさくて、
割の合わない話と、
子供時代には誰もが漠然と
そのように感じています。
受身形で与えられた生を、
今度は、

はっきり自分の生として引き受け、
主体的に把握しなければ
ならないのです。
考えてみれば、つじつまの合わない、
かなり難解なことを、ひとびとは
やってのけているわけなのでした。

(吉野弘の詩「I was born」の解説から)

とっくに死んだ詩人たち
―たとえば芭蕉がやった仕事などは、
現代の私たちの感受性にも
大きな影響を与え、
よくもわるくも民族の感覚を
決定づけるくらいの
大きなことをやっているわけで、
芭蕉の一句さえ
読んだことのない人にも、
はかりしれないものを
与えつづけています。

(黒田三郎の詩「それは」の解説から)

青春は美しいというのは、
そこを通りすぎて、
ふりかえったときに言えることで、
青春のさなかは大変苦しく
暗いものだとおもいます。
大海でたった一人もがいているような。
さまざまな可能性がひしめきあって、
どれが本当の自分なのか
わからないし、

海のものとも
山のものともわからないし、
からだのほうは
盲目的に発達してゆくし、
心のほうはそれに追いつけず
我ながら幼稚っぽいしで。
ありあまる活力と
意気消沈とがせめぎあって、
生涯で一番ドラマチックな季節です。

(牟礼慶子「見えない季節」の解説から)

もし、ほんとうに教育の名に
値するものがあるとすれば、
それは自分で自分を
教育できたときではないのかしら。
教育とは誰かが手とり足とり
やってくれるものと思って、
私たちはいたって受動的ですが、
もっと能動的なもの。

自分の中に一人の
一番きびしい教師を育てえたとき、
教育はなれり、という気がします。

(石垣りん「くらし」の解説から)

今日はただただ
抜き書きになってしまいました。
岩波ジュニア新書の一冊ですが、
大人が味わうのに
十分な深みをもった一冊です。
1979年に出版され、
今なお版を重ねているのも肯けます。
未読の方に、超お薦めの新書本です。

(2020.5.28)

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